福井・大野 水の都

美しい山間の町

福井県大野市は織田信長の時代に開かれた城下町である。

日本に小京都と名のつく都は80ほどあるのだが、京都のように碁盤の目の東西南北に走る道と区割りで計画された、いわゆる厳密な意味での「小京都」は4つしかない。

そのうちの2つが、福井県にあり、ひとつは小浜、そしてもうひとつがここ大野である。

大野は大野盆地にある。

奥越の山々に降る雨を集める源流は真名川、清滝川など6本の河川を作る。

それらは渓谷を下り大野盆地を貫き流れ、やがて九頭竜川に注ぎ込む。

大野の年間降水量は全国平均を1000mmも上回る。

その豊富な水資源は大野市民の60%がおのおのの家庭用井戸を持ち、この伏流水の恩恵に浴する利便を大野にもたらしている。

扇状地の地下に大きな水瓶を抱いているという点でも、大野はまさしく小京都と言えよう。

地下からくみ上げられたその伏流水は区割り用水となって街中を縦横に流れる。

それは400年以上も変わらずに現在も使われ続けているのだ。

全国名水百選にも入っている地下水には、かつて大野藩の殿様が食べる米を洗うのに専用した「御清水」(おしょうず、と読む)を初め、甘露水が湧出する井戸がいくつも市内にある。

山間の盆地なので大野は福井県内有数の豪雪地帯でもある。

冬季、中国大陸からからからに乾燥した偏西風は日本海でたっぷりと水蒸気を吸い上げ孕み、奥越の山に突き当たり、雪としてその水分を振い落とす。

アジア太平洋モンスーン気候、または温帯湿潤気候がもたらす冬季の豪雪地帯としては北陸地方、東北地方は世界最上位であるから、大野の豪雪はそのまま世界トップレベルということになる。

街中で2メートル。山間だと5メートル。

この大雪はここに暮らす人々の厳冬の生活を制限するものであったが、同時に豪雪ならではの特長も併せ持っている。

大野産の野菜や米の美味しさは福井県民誰もが知るところだ。地野菜だけでなく、レタスやグリーンリーフなどの洋野菜もその清流で栽培し流通させている。

私は地産地消の大賛同者としてこの大野野菜を積極的に購入しているが、その理由は、美味しい、ということが大前提である。

秋の週末、大野へぶらぶらドライブを楽しんだ。

「七間朝市」をひやかす。

農家のおばさんたちと談笑しながら野菜や駄菓子を買う。

寺町通り、石灯篭通り、七間通りを歩く。御清水という湧水場で清水をひしゃくですくって飲み、また、三番通りから六間通りを抜けて、また七間通りで、大福を買い、歩き食いしながら、またまたぶらぶら。

 地産味噌と醤油を買う。

これも、水がいいから美味しい。

 秋の日差しは心地よく、背中を暖める。

 谷から吹き降りる風が、すすきの穂を開かせている。 

緑が少し褪せて微かに黄や橙を浮かべ始めた山肌が済み渡った空気の向こうで柔らかく揺れている。

四季の移ろいをこんなふうに風の匂いや水の味で感じるのもまた楽しいものだ。

福井、大野。

小京都の冠がなくとも、十二分に魅せられる街である。

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